Disabled in STEMM
ブラッドリー・デュアストック博士インタビュー 字幕テキスト
あなたの障害についてお話しください
デュアストック博士:18歳のときプールでの飛び込み事故で脊髄損傷を負いました。肩から下がほとんど動かない四肢麻痺で電動車いすを使っています。上肢はある程度動かせますが、手で物をつかむのは難しいです。でもジョイスティックを使って車いすを動かしたり、タイプを打ったりすることはできます。
大学進学を諦めようと思ったことは?
デュアストック博士:いいえ。私はずっと大学に行くと決めていました。それは人生設計の一部だったので。ナイーブだったかもしれませんが、きっと何とかなると思っていました。けがから回復するまで1年休みましたが、大学には行くつもりでした。はじめは医学を考えたのですが、それはかなり難しいようだったので、少なくとも当時の私にはそう思えたので、それが工学を選んだ理由の1つです。身体的にもこなせそうだと思ったので。
インタビュアー:大学では合理的配慮は受けられましたか。ちょうど米国障害者法が制定されたころだと思いますが。
デュアストック博士:そうです。1990年にアメリカで障害者のアクセシビリティを保障する主要な法律が成立しました。大学を含む公共機関は対応する必要がありましたが、残念ながら民間では基準を満たすための努力を始めたところで、まだ十分対応できていませんでした。パデュー大学を含む公共機関は対応していて、歩道の段差をなくしたり、大学の寮を車椅子の人が使えるようにすることが行われていました。それがパデュー大学を選んだ大きな理由です。両親と一緒にいくつかの大学を見て回りましたが、他の大学は十分な対応ができていませんでした。大学選びは、個人的な希望もありましたが、現実的な選択でもありました。
これまでにくじけそうになったことは?
デュアストック博士:そうですね。大学院に入って博士号を取ろうとしていたときですね。学部生の時は、ノートテイカーや実験助手の助けを借りて科学の授業をこなせました。でも大学院生になると、独立して研究を行う必要がありました。教員も大学院生には実験で用いる機材の使い方をマスターすることを期待します。私の場合それは顕微鏡でした。学位論文を書くためにはそれを使いこなす必要があり、授業では何とかなっても研究ではなかなかうまく行きませんでした。ほかの道もあったかもしれませんが、私は自分が使う機材をきちんと理解したかった。実験が重要な研究で、研究室の機材や実験のプロトコルをよく理解し、得られた結果に合わせて変更を加えていく必要がありました。実際的なレベルで理解する必要があり、それがはじめはとても大変でした。そこで私は最初に獲得した研究助成金で、自分が使える顕微鏡を開発することにしました。米国科学財団に助成を申請し、私のような障害をもつ人が使える顕微鏡を開発できればたくさんの人の役に立つと訴えましたが、本音は自分の研究に使えればと思っていて、幸いなことに、これがとても役に立ち、独立して研究を進めることができました。
大学院時代に支えになったことは?
デュアストック博士:当時はそれがどれほど幸運なことかわかってなかったのですが、私の研究室の指導教員は私を快く受け入れてくれました。彼は私に、こうしたらああしたらと解決策を示すのではなく、辛抱強く待ってくれたのです。私は学位論文のためにどんな研究方法をとればいいかわかるまで時間がかかりましたが、これは大事なことなんですが、有難いことに彼は十分に研究費を持っていて、私に十分な時間を与えてくれる余裕がありました。さらに一緒に研究していた人たちにも恵まれました。大学院生も実験室の技師たちもみんなが私を支えてくれました。当時はわかってなかったのですが、そのようなサポート体制があることはとても大切です。よその学生の話では、そのような配慮をしてくれる研究室ばかりではないようです。終身在職権を得るため研究成果を急いで多数出さなければならない指導教員は、自分の下で研究している学生にも早く多くの結果を出すことを求めます。これは難しい問題で、障害者だけでなく、例えば家族を持とうとしている女性にとって、妊娠や子育てといったことが間違いなく仕事に影響を及ぼすでしょう。そうした学生の様々なニーズに対応できる研究室を作ることはとても大事なことです。
インタビュアー:科学領域の文化はよい方向に変化してきていると感じますか? 変わりませんか?
デュアストック博士:いい質問ですね。私も考えてみましたが、確かに良くはなっていると思います。特に理工系教育を受ける女性やマイノリティ、障害をもつ人たちは増えてきています。理工系教育に多様性の確保が重要なのは、研究に多様な視点がもたらされるだけでなく、先ほどあなたがおっしゃった「文化」を変えることが必要だからです。研究室で毎日12時間過ごして、研究だけがすべてという人生はありえません。人はもっと他の責任も負っているのです。対処しなくてはならない障害もあれば、家族もいる、子どもを育てている人もいて、彼らがそんな文化のせいで理工系領域で活躍できないのは残念なことです。それはあくまでも恣意的なものですから、私たちはそんな慣習を変えることで、人々のニーズに対応すべきです。
障害があるからこそできる研究とは?
デュアストック博士:障害をもちながら支援技術の開発とリハビリテーション工学に携わる人間として、より日常生活に役立つということを重視しています。私たちが現在研究しているのは,「自律神経過反射」というもので、一般の方はあまりご存じないでしょうが、脊髄損傷の人に特有の症状です。しかし多くの人は麻痺と聞くと「この人は動けないから」と、研究の焦点を動けるようにすること、歩けるようにすることに置こうとします。確かにそれも大事ですが、私の日常生活に最も大きな影響を及ぼしていることではない。車椅子に乗れば行きたいところに行けます。移動の問題は確かに大きな障害ですが、日常生活の中で困ることはもっと他にあり、自律神経過反射はまさにその一つです。自律神経系の異常な変化によって、あえて詳しくは述べませんが、体温調整機能の異常や排便・排尿の問題、痛覚欠如の問題などが生じてきます。脊髄損傷の人に聞けばこれらのことが歩くことより重要な問題だと答えるでしょう。でも障害のない多くの人はそれに気づかないのです。もう一つ、視覚障害の人の例を挙げましょう。視覚障害の研究者が情報を得ようとしたら、科学というのは非常に視覚重視の領域で、図や写真など、研究機器から得られる情報はほとんどがビジュアルなものですから、全盲だったり弱視だったりする人は別の感覚を使います。彼らは聴覚を使って科学を“観る”のです。科学界の95%の人が情報を得るのとは異なる方法で情報を得るのです。皆が同じ方法でデータを見るのではなく、異なる方法で見ることで利益があるはずです。そのほうが有利な場合もあることは、既に数多くの事例で示されています。知らぬ間に私たちは視覚情報に頼りすぎ、他の様々な感覚を忘れてしまっているのです。
科学アクセシビリティ研究所について教えてください
デュアストック博士:私がNIH(米国立衛生研究所)の助成金を得て、仲間と立ち上げたイニシアティブです。STEM(理工系)領域で障害を持つ人々がより活躍できるようにと立ち上げました。何が障壁になっているのか、先ほどアクセシビリティの話をしましたが、実験室には物があふれており、振り返ったときに高価な機材をひっくり返す不安もあります。狭い空間にすべてが詰め込まれているのが科学実験室の問題です。これは空間的な建築上のアクセスの問題ですが、さらに顕微鏡の例にもあったように研究機材へのアクセスの問題があります。しかし、それ以外にも障害者が科学領域の職業で成功する際の障壁になるのは、その人が目指すのが医師であろうと科学者であろうと、それはインターンシップの機会を得るのが難しいことです。病院であれ企業であれ、まったく新しい環境に入っていかねばなりませんが、アクセスがいいところとは限りませんから、障害者はなかなかインターン経験を積めません。学部生や院生が実社会の仕事に触れられる貴重な機会を逃してしまうのです。さらに障害学生の場合は相談支援制度が充実していないことも問題です。相談したいことや障壁に直面したときに、理解を示して助けてくれる人がいないのです。私が障害に直面したときにどうやって乗り越えたらいいのか。もし私が全盲で、解剖学のクラスを取らなくてはならないとしたらどうしたらいいのか、という問いにはなかなか答えてもらえません。私たち科学アクセシビリティ研究所は、こうしたことに取り組むことを目指しています。
理工系領域での成功を目指す障害学生へのアドバイスは?
デュアストック博士:そうですね。忍耐力が何よりも大切ですね。問題としっかり向き合い、すぐに諦めないこと。物事がうまく行かない時や他の人から助け舟を出してもらえない時でも諦めないことです。私の指導教員が素晴らしかったのは、彼が解決策を提示してくれたからではなく、彼が辛抱強く「君を信頼している。手伝えるところはできる限り手伝おう。でも最終的に成功をつかめるかどうかは個人の問題だよ」と言ってくれたからです。人生とはそういうものです。
仕事をする上で身体的な条件が課せられることも多いですね。例えば30ポンドの荷物を持ち上げなければならないとして、それが仕事をする上で本当に重要なことか。それが重要という仕事もあるかもしれないが、単に30ポンドの荷物を動かすだけだとしたら、もしそれが問題なのだとしたら、30ポンドの荷物をわざわざ持ち上げる必要はなくて、もっと他の道具や手段を使ってやればいい。だからいつも私はゴールについて考えます。「作業をこなすことがゴールなのか」それとも「作業で得られる結果がゴールなのか」。もし結果を得ることがゴールなら、それをどのようにこなすのかは、頭を柔らかくして、従来の方法とは全く違うやり方でやってみることが大切です。
障害については世界中どこに行っても同じ課題があるし、完ぺきにこなせている人はどこにもいない。ということは、あなたは1人ではないし、解決策もあるということです。ですから、あなたが好きだと思えることを頑張って続けることです。誰かに「これはあなたにもできることですよ」といわれたからではなく、夢中になれるようなことでないと、それで成功することはできません。車いすの人が、自動車をいじる仕事がしたいのに、周りからコンピュータのほうがいいよと言われるという話を聞きます。でもその人はコンピュータは好きじゃないかもしれない。自動車をいじることが好きなんだったら、立位が取れる車いすを使う方法もある。誰もが夢中になれることをやることが生産性を高めることにつながるのです。
ただ、あなたが持っている可能性を理解してもらうのが難しい場合もある。だからあなたを信じて助けてくれる人々とのつながりを築くことがとても大切です。本当はみんながあなたにチャンスを与えたい、あなたに成功してほしいと思っています。あなたの可能性に気づいてもらうのに少し時間がかかるかもしれませんが、そうした人たちの助けを活用することをお勧めします。